お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「お前の人生を台無しにしたことは知っている。立場上正妃と離婚できない私を、お前が恨んでいることも。だが私は、お前が愛しい。……お前が良いのだ」
カイラは目を見開いた。
カイラはカイラで、とっくに陛下の寵など失われていると思っていた。
たったあれだけの嫌がらせで心を病む妻など、王妃の座にはふさわしくない。
既に身寄りを失っていることを考えて、彼が同情でこの離宮に置いてくれているのだろうと思っていたのだ。
「う、恨んでなどおりません。元侍女の分際で、正妃様に嫉妬してしまう自分の醜さに辟易していただけですわ。私は弱くて、あなたに迷惑をかけるばかりです。なのにあなたは私に、離宮という住まう場所をくださった。もう私にできることは、ここでおとなしくしていることだと、そう思っていただけです」
「ならば。……傷つけることを承知で言う。もう一度、戻ってきてくれないか。私はひとりが、――寂しい」
「でも正妃様が」
「あれとの結婚は政治的な意味がある。だが、それがお前を傷つけるのなら、その勢力図を変えるのも厭わない」
「いいえ、いいえ、そんなことを望んでいるわけではありません」
突如として始まった二人の熱烈な告白タイムに、ザックとロザリーは真っ赤だ。
「しばらくふたりにさせておこう。見てられない」
ザックに腕を掴まれ、ロザリーは隣室へと連れていかれる。
「あー、陛下もそろそろ戻らないとまずいんですけどねぇ」
途方に暮れたように言うのがウィンズだ。ライザだけは、表情を変えないまままるで空気のようにその場に控えていた。