お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「バイロン王子の体調はどうなんだ?」
「あの子は相変わらずです。悪くもなっていませんが、よくなることはないとお医者様はおっしゃっています」
自分の子のことなのにすました調子でマデリンは言う。
生まれてすぐ、引き離されて乳母によって育てられたことも起因しているのだろうが、彼女にはあまり母性というものが育っていない。
マデリンの今の立場を保証するものは、王であるナサニエルの存在だ。だが、寵愛を受けているかといえばそれは否だ。第二妃との不仲がささやかれているときさえ、ナサニエルがマデリンのもとを訪れることはほとんどなかった。
だが、彼女が王子たちの母である以上、離縁という話にはならない。
「バイロンの体調が治るのが本当ならば一番だったのだがな」
「お兄様?」
「……いや。第三王子を生んだのはお手柄だったな。バイロンだけでは成しえなかった手が使える」
「なにを考えておられるのです? 私の立場を揺るがすようなことになれば……」
気色ばむマデリンを、侯爵は視線だけで黙らせる。
「落ち着け。私がお前のためにならないことをしたことが一度だってあるか?」
「いいえ。お兄様は私を王妃に、そして国母にしてくださった」
「だろう? 私が考えているのはいつだって、お前の幸せと安泰だ」
そう言うと、侯爵は薄く笑う。いつもなら、それを頼もしいと感じるマデリンだったが、その日はなぜか、空恐ろしい気持ちがした。