お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「今度領地に戻るときは、結婚祝いを持っていくよ。なにか希望はあるかい?」
そんなふたりの会話を横目に、ザックは思わずぼそりとつぶやいた。
「結婚か。……いいなぁ」
目ざとくそれを聞きつけたケネスとレイモンドは、顔を見合わせ、ロザリーには聞こえないように小声でザックに話しかける。
「なんだ、結婚したいんですか。ザック様」
「したい」
「はっきり言いますね」
からかうような口調のレイモンドに、ザックは重めのため息で返す。
「ずっと前からしたいと思っている。アイビーヒルと違ってここだとあまり顔を合わせることができないし、離れていると心配だ。ただ……ロザリーがまだ十六だというのを考慮して言わなかっただけだ。だが、そこまで悠長にしていられる感じでもなくなってきたからな。こんなことは考えたくないが、第二王子でいられるうちに最低限婚約まではしたい」
断言するアイザックに、ケネスが肩を叩いて同意する。
「まあそうだね。君が王太子になってからでは、辺境の男爵令嬢はちょっとねじ込むのが難しいもんなぁ」
「今なら大丈夫なんです?」
第二王子だってそう変わらないのでは……とレイモンドが聞けば、「まあな」と言いつつ苦笑する。
「だが今なら、第二王子のわがままで済むだろう? 王太子妃となれば、彼女がどんな嫌がらせをうけるか分からない」
「まあそれは今でも変わらないんじゃない? バイロン様があの状態なんだから、君に狙いをつけている貴族はいっぱいいるだろう」