お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

「良くも悪くもアンスバッハ侯爵のせいで、今のところは落ち着いてるな。俺につくのはイコール侯爵を敵に回すことになるから」

ザックは苦笑する。そう。今ならば周りの反対を押し切ってでも結婚できるのではないかと彼は考えている。
下手に第一王子になにかあった後では、面倒が増えるというものだ。
まあそうなったからといって、彼女をあきらめるという選択肢は、もうザックにはなかったが。

「だったらすればいいじゃない。ロザリーも社交界デビューも終わったしさ。陛下に許可を取ればいいだけだろう」

さらりと言うケネスに、辟易したような顔でザックが答える。

「母上が意外と厳しい。自分のときのことを思い出したんだろうな。ロザリーが貴族社会の中で困らない程度の令嬢教育を施すから待てというんだ」

「でもそれはカイラ様が正しいんじゃない?」

「ふたりきりになるのも邪魔されるから困る。元気になったのはいいが、元気すぎだ」

ナサニエルとの関係が修復したカイラは、夢遊病の症状もすっかり治った。……のはいいのだが、今度はロザリーを教育しようと躍起になっている。
自分が王妃になったときに、相当思うところがあったのだろう。
それまで間違いを起こさないようにと、離宮での監視は一層ひどくなっている。

ザックとしては、アイビーヒルにいたときのように、気軽にロザリーと散歩したり穏やかな時間を楽しみたいだけなのだが、その時間すら取らせてもらえないのだ。
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