お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

幼い自分にその言葉が正しく浸透するには時間がかかった。
しばらくは、やはり寵愛を受けるカイラ妃と彼が羨ましくて。

けれど、やがてカイラ妃が体調を崩すようになったころから、父の態度が変わってきた。

カイラ妃は部屋にこもるようになっていて、それまで彼女と過ごしていた時間を、父はバイロンに向け始めたのだ。
父から直接聞く国政の話は、彼に驚きと感嘆をもたらした。
それまで、伯父からの『私に任せておけば、お前は立派な王になれる』といった漠然としたアドバイスとは違い、父の話には彼の理想が詰め込まれていたのだ。

『何事も理想通りにはいかない。だが、そこを目指すことが正しい国を作ることに繋がると私は思う』

バイロンの周りにはいろんな人間が集まってきた。権力にすり寄る者や、単純に勝ち組に乗ろうという者、あるいは、彼に自分の思想を植え付けようと躍起になる者。
その中で、一番心に響く言葉をくれたのは、いつだって父だったように思う。

父が、自分を王太子として優遇してくれたことは、バイロンの精神に安定をもたらした。
おかげで、学術院を卒業するころには、バイロンは冷静に自分の周りが見えるようになっていた。

母は、自分の興味のあることにしか関心を示さず、コンラッドも母に似た享楽主義者だ。
伯父は上手に政治を回しているように見えるが、強引なところがある。仮にも国王である父親の主張を数の論理で崩していくのは、見てみていいものではなかった。
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