お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
そしてアイザックは国そのものを愛していないようだった。
能力で言えば、彼はおそらく自分よりも上だろう。学園時代も、仲間から好かれるのはアイザックの方だ。
だが彼には肝心の、国を愛する心が無かったのだ。
父が自分を選んだ理由も、自分なりに納得できて、バイロンは満足だった。
このまま、父の理想の政治をするための助けになる。そう誓って、しばらくした頃だ。
バイロンは突然、体調を崩した。
何が原因なのかは分からない。体が重く、時折呼吸が苦しい。それでも数年は執務に携わっていたが、二年ほど前からはずっと起きているのがつらくなり、政務からも遠ざかった。
バイロンに期待してくれていた父は肩を落とし、自らも国政への意欲を失った。
それを見ているのが、バイロンにはとても辛かった。
決して、彼の翼を折りたかったわけではないのに。
だが、自分の体もままならないバイロンには、なす術がなかった。
ただ、ベッドの上で身動きも取れないまま、毎日思いを巡らすだけだ。
今まで自分は何をしてきたのだろう。
王子が三人もいるのは、国家としては恵まれているはずだ。なのにどうして自分たちは、協力し合うことができなかったのだろう。
自分で立つ力を失って、バイロンはそう考えるようになった。
父を助けたいという思いを、なぜ自分は弟たちと共有しようと思わなかったのか。
答えは簡単だ。バイロンは誰のことも信用していなかったからだ。
自分にすり寄ってくる人間はみな、権力狙いだ。側近も学友も下心が透けてみえた。王族とは孤独なものだと父も言っていたから、そんなものなのだろうと思っていた。