お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「よくも悪くもなってはおりません。伯父上が顔を出すなんて珍しいですね。どうされました」
「いろいろとごたごたしていたからな。そろそろ大きな動きが必要かと思ってな」
「……大きな動き、とは?」
「もちろん、すべては国のためだ。お前に薬をもらってきた。南方の、喉に効く薬だ」
「南方の?」
「ああ。取り寄せてもらったんだ。呼吸が楽になるぞ。寝る前に飲むといい」
「……ありがとうございます」
伯父の笑顔に妙なものを感じつつ、バイロンはそれを受け取った。
あとで、誰かに調べさせよう。伯父のもってくるものなど、信用できない。
小瓶に入れられた琥珀色の薬。銀色のスプーン。
それを横目で見ながら、疲れを感じたバイロンは眠りにつく。
と、次に気づいたとき、バイロンは全身が汗だくだった。口の中は甘く、妙にべたついている。吐き気がひどいが、ベッドから起き上がることも出来ず、体の中を襲う痛みと違和感に、のたうち回ることしかできない。
「いったい、なにが」
チラリとベッドサイドを見れば、薬は無かった。誰かが寝ている自分の口の中に入れて、持ち去ったのかもしれない。
だとすればこれが毒なのか。伯父はそれほどまでに、自分を邪魔に思っているのか?
眠っていたからか、侍女も席を外している。通常ならば部屋の前に衛兵もいるはずだが、苦し気な息までは聞こえないのか、誰も入ってこようとはしない。