お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「くっ、……父上」
何も残せずに死ぬのか、と思えば、バイロンは怖かった。
父の力になることも、王太子として成果を残すことも出来ずに。
「俺は王太子だ。……それしかなかったんだ」
喉をかきむしりながら、バイロンは必死に叫ぶ。
「それさえも、奪うのか、あなたは……!」
……憎い。
ままならない体も、権力だけを求める伯父も、快楽だけを求める母や弟も。
何の役にも立てずに、死にゆく自分も。
「……頼む、アイザック。父上を」
父上を、守ってくれ……。
やがて絶叫したバイロンに、ようやく侍女が気付いた。
彼女が聞いたのは、「アイザック」という単語のみ。
「きゃ、きゃああああ」
悲鳴に、衛兵も駆けつけてきた。
二十六年という短い人生で、誰よりも王太子という立場に固執し続けた彼は、その瞬間、ようやく王子という鎖から解き放たれたのだ。
【to be continued……】