お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
光明、差し込む?
その夜、戻ってきたレイモンドはすっかり落ち込んでいた。
とりあえず一緒に併設の食堂で夕食を取っているが、目の前の皿があまり減っていかない。まあ、あまりおいしくないという理由もあるけれど。
「駄目だ。完全に門前払いだった。執事らしき男が出て、オードリーには別な縁談があるんだから会わせるわけにはいかないってな」
オードリーにもクリスにも、それどころかオルコット夫妻に会うことすら叶わなかったのだという。
「私も、王城にははいれませんでした。よく考えれば当たり前なんですけど、伝手がないと入城するだけでも無理そうなんです」
心配のあまり、細かな段取りなど考えなかった、とロザリーは自分の浅はかさを呪う。
行けばなんとかなるなんて、楽観的過ぎた。
ふたりはしばし沈黙し、考え込んだ。全く伝手がないわけではない。ただ迷惑をかけるのが心苦しいだけだ。しかし、せめて無事だけでも確かめたいので、最後の手段に頼ることにする。
「ケネス様に、手紙を書きます」
「えっ?」
「お手を煩わせるのは申し訳ないですが、頼れる人はケネス様しかいませんもの」
イートン伯爵のタウンハウスの住所は知っている。これまでも、ケネスのもとに手紙を届けてからザックに渡してもらっていたのだ。住所と街の地図を照らし合わせると、街の北側、貴族街の中央あたりに位置している。男爵令嬢として手紙を書けば、門前払いされることもなくケネスのもとまでは届くだろう。
そうなれば彼が手を差し伸べてくれるはずだ。