お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
残されたロザリーは手持無沙汰になってしまった。
宿だと思うと手伝いをしたくなってしまうが、この宿には潤沢に従業員がいる。
でもじっとしているとうずうずしてしまう自分を止められない。仕方なく、出かけることにした。
昨日は新しいにおいばかりで興奮してしまったので、もう少し落ち着いて王都の城下町を観察するためだ。
宿からまっすぐ市場へと向かう。
朝だからか、夕方近くに訪れた昨日よりも活気づいていた。商品を売り込む声があちこちから響いてくる。
「いらっしゃい、安いよ、安いよ!」
呼び込みに惹かれて覗いてみるも、見た目にも鮮度がいまいちそうな果物が並んでいる。なのに値段は高額だ。王都だからアイビーヒルに比べて物価が高いのはわかるけれど、鮮度まで落ちているのはいただけない。
「田舎町のほうがおいしいものが食べれるのかも。畑は直ぐ近くにあるから新鮮だもんね」
けれども王都の市場にはいろいろな種類の食材が集まってくるようだ。見たこともない野菜がいっぱい並んでいる。レイモンドならば、この食材をどう調理するのだろうと、ロザリーは想像しながら歩く。
ひと通り見終わったあたりで、ふいにクリスに似た香りを嗅ぎつけ、あたりをきょろきょろと見回した。けれど、あの長いまっすぐな金髪はどこにも見当たらなかった。
「気のせいかな」