お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
レイモンドの話だと、オードリーの死んだ夫の家は裕福な子爵家らしい。家は貴族街にあるのだから、こんな平民街の市場に来るはずがない。
トボトボと歩き出したとき、目を奪われるような豪華な装飾が施された馬車が目の前を通った。どう見ても平民のものではない。貴族の中でもそれなりの経済力を持った家の持ち物だろう。
呆気に取られて見送っていると、馬車は急にスピードを落とし、十メートルほど先で止まった。

扉が勢いよく開き、転びそうな状態でレイモンドが飛び出してくる。

「レイモンドさん?」

「ロザリー、あのな……」

「やあ、ロザリー嬢。久しぶりだね。手紙をありがとう」

後ろから悠然と下りてくるのはケネスだ。フロックコートにシルクハットとアイビーヒルにいたときよりもおしゃれに決めている。

「ケネス様!」

届けたとしても、執事が受け取るのだから返事は早くても明日だと思っていたので、ロザリーは驚きを隠せない。
ロザリーが駆け寄っていくと、ケネスは二ヵ月前と変わらない笑顔で彼女を迎えた。

「気になってはいたんだ。ザックからの手紙が途絶えて、心配しているかなと」

「そ、そうなんです。それで私」

「もともと、君を迎えにやるつもりだったんだよ。ただ下準備に手間取っちゃってね。使者を送り出せたのが昨日だったんだ。今頃、アイビーヒルの伯爵邸で、使者が困っているのが目に浮かぶね」

ケネスは、にっこり笑うとウィンクする。

「加えて、レイモンドまで来てるなんて、俺はなんてラッキーなんだ。さあふたりとも、荷物をまとめて伯爵邸に向かうとしよう」

「え、あ、あの」

ケネスの話の内容が理解できる前に、ロザリーは馬車に乗せられ、そのまま宿屋まで強制送還された。
そして連泊予定だった部屋をキャンセルし、荷物を引き上げてイートン伯爵のタウンハウスへと向かうこととなった。

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