お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「これを見てください」
バーナード侯爵が持ち出したのは、印字がずれた硬貨だ。
「なんですかこれは。まるでおもちゃだ」
「隣国に視察に行ったときに、あちらの外相から見せられたものです。このくらい作りの悪い硬貨が混ざっていることがあるそうで、硬貨による取引には不安があると言われました」
「それでしたら、造幣局に確認するべきでしょうね」
「もちろん確認しようとしましたとも。議会にかけた結果、アンスバッハ侯爵が視察したうえで、造幣局に注意喚起することになりました。けれど、視察結果は何の異状もなしと言われました。貨幣を作る際には、一定の割合で不良は出るものだから、それがたまたま海外の人間の手に渡ってしまったのだろうと」
国の第一人者が言ったとは思えないほど楽観的な見解だ。
ザックは眉根を寄せる。たしかに不良品というものは何を作ったにしても一定割合で出るものだ。が、それは再生成に使われるものであり、市場に出てしまったと言えば大変な責任だ。
もし造幣局に何の処罰もしていないなら、それはそれで管理の在り方を問われるべきことだろう。
それに……。
ザックはアイビーヒルでの記念硬貨事件を思い出す。
ザックが生まれる前から王位についていた現王は今年在位三十年を迎えた。その記念硬貨が発売され、多くの国民が買い求めた。
金貨だから劣化には強いはずなのに、王都で買ってきたという少年が持っていた金貨は、たった一晩で判別が難しいと感じるほど錆びていた。温泉場だったからということを考えても、おかしい。普通の金貨の配合ではありえないはずだ。