お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

「それは災難だったね」

バーナード侯爵が帰った後、疲れ切ったというようにソファに体を預けるザックに、お茶をふるまうのはケネスだ。

「夜会に出るならパートナーがいるだろう。ロザリー嬢を呼んだらどうだい?」

「駄目だ。彼女にまで危険が及んだらどうする。呼ぶならすべてが落ち着いた後だ」

「全てが落ち着くときなんて来るのかい? 病弱な王太子と健康だが頭に難のある第三王子と腹違いの第二王子。この構図を見ただけでも、平和とは程遠いと思うんだけどね」

政治の派閥とは別に、王家の家族関係も平和とはいいがたい。
在位が長く、政治への関心を失いつつある父王。
野心を抱えた兄を持つ第一夫人とその息子たち。
身分が低く、精神的に病んでいる第二夫人とその息子であるザック。
どこをとっても完璧とはいえず、議会内でも誰を推していくべきか方針が定まっていない陣営も多くある。

せめて王太子バイロンが健康であれば、ザックが彼らの悪意を受けることはなかっただろう。
王に今何かがあっても、王位を継承するのはバイロンだ。そうなれば、母である第一王妃とその兄であるアンスバッハ侯爵は望みの権力を手に入れられる。

しかしもし、バイロンが先に逝去することになれば、法により王位継承者は第二王子であるアイザックに移る。たとえ第三王子のほうが血統的に正しくても、それは揺るがない。
まさに、第一王妃とアンスバッハ侯爵にとっては、ザックは目の上のたんこぶなのである。

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