お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「しかも俺がバーナード侯爵派についてるんだから質は悪いよな……」
敵視される覚えはある。だからこそ、ザックは弱みを見せられない。
思い人がロザリーであると知れたら、彼女にどんな悪意の手が伸びるか分からないのだ。
「ロザリーを危険から守るには、彼女の存在に気づかれてはならないんだ。だから手紙だってこうしてお前に頼んでるんじゃないか」
三日と開けずに書かれる手紙をケネスは苦笑しながら受け取った。
「そうだね。ああ、これがロザリー嬢からの返事だよ。君たちはお互いに筆まめだね」
「手間をかけさせて悪いな」
受け取って、彼女の筆跡を検める。ロザリーは丸みの帯びた字を書く。アルファベットのaとuが似て見えて、たまに読み間違えてしまって苦労するが、それもまた楽しいと思えてしまう。
「……ロザリーに会いたいな」
「そう思っているなら、やせ我慢などしなきゃいいと思うけどね、俺は」
誰にも聞こえないように音を出さなかったつもりだが、ケネスには聞こえていたようだ。
苦笑したまま、ザックは黙り込んでロザリーからの他愛もない話題満載の手紙を眺めた。