お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
そんな風に王都での生活をスタートさせたザックは、不在の間に決まった政策や出来事をすべて確認し終えたあと、第一王子の見舞いに向かった。
王都に戻ってから挨拶を済ませていないのは病床の兄だけだったので、早々に形だけでも済まそうと思ったのだ。
城の三階にある兄の私室の前には衛兵がおり、兄弟だというのに執拗にボディチェックを受けさせられる。
ようやく許可が出て、半ば辟易しながら扉をノックした。
「兄上、入りますよ」
薄暗い室内。ベッドに横たわる王太子バイロンは、生気を失った瞳で、一年ぶりに会う弟を眺める。
二十六歳とは思えぬ体の線の細さ。父親譲りの金髪はくすみ、だらしなく伸びている。
「なんだ。アイザックじゃないか。生きていたのか」
「そうですね。あいにくピンピンしております」
見舞いにと花を持ってきていたが、すでに枕もとの花瓶は満開だ。
「……後で侍女に渡しておきます。今日は帰城の報告に伺っただけなのです」
「まあ、お前が帰ってこようがどうしようが、俺には関係ない……ごほっ」
話すだけでも疲れるのか、咳き込んだ王太子の背中が曲がっていく。はあ、はあ、と息を荒げ、苦しそうに胸元を押さえた。
「兄上、主治医を呼びますか?」
「いい。じっとしていれば収まるんだ。医者を呼んだって薬湯を処方されるだけだ。それより、アイザック。そこのテーブルの上に菓子があるだろう」
言われてテーブルを見ると、小さなお皿に焼き菓子が三つ乗せられていた。