お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

「料理長が作ってくれたんだが、この通り食欲もなくてね。しかし皿を空にして戻さないのも気が引ける。お前、代わりに食べてくれないか?」

「俺が……しかし料理長ならば兄上の健康を気遣って作ってくれたのでは?」

「ああ。だがそれも口にできないくらい体調は悪い。……それも知られたくないのだよ。お前ならわかってくれるだろう。次期王」

アイザックは次期王ではない。王位継承権は今もバイロンが第一位だ。
この発言は、バイロンが自分の生をあきらめた宣言だともいえる。
そもそもザックは王位など望んでいない。だがバイロンは異母弟が王位を狙っていると執拗に思い込んでいるのだ。ザックは唇を噛みしめできる限り当り障りのない言葉を選んだ。

「……父上が一番期待し、跡を継いでほしいと願っているのは兄上です。どうかお元気になってください」

「心にもないことを言うな。そんな体力が俺のどこにある」

「兄上」

「頼むから、……その菓子を持って消えてくれ」

腹違いの弟の存在が、彼にとっていい影響を与えないことなど分かり切っている。
ザックは言われるがまま、菓子を手に取り、兄の部屋を出た。
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