お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

「やあ、どうだった。ザック」

執務室で出迎えてくれるのはケネスだ。心を許せる存在を見て自然と体から力が抜ける。先ほどまでどれだけ気を張っていたのかを、ザックはこのタイミングで実感した。

「その手に持っているのは何だい?」

「兄上からもらったものだ」

「バイロン様から? 珍しいな。しかも食べ物なんて……捨てたほうがいいんじゃないか」

ケネスの心配そうな表情に、一瞬ザックは意味が分からなかった。
やがて毒の存在を懸念しているのだと気づき、まさか、と首を横に振る。

「これは兄上用に料理長が作ったものだぞ?」

「それを証言しているのは今のところバイロン様だけなんだろう?」

ケネスは常ににこやかだが、ザックよりも客観的に物事を見る。だが、ザックには逆に意地のようなものもあった。仲は良くないが、兄弟間で殺し合いするほど殺伐した関係だとは思いたくない。

「大丈夫だよ」

口もとに運ぼうとした手をケネスが「まあ少し待てよ」と止める。そして出窓を大きく開き、ワックス紙に乗せた菓子を外に近い位置に置いた。そして、窓から見える位置の木々を確認する。

「ちょうどカラスもいる。食べてくれるといいけどね」

そしてカラスが寄ってくるようにと、自分のカフスボタンをはずし、その近くに置いた。
ザックは少しばかり眉をひそめた。
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