お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「ケネス、大丈夫だって」
「君は王子だ。用心するに越したことはないよ。侍女がお茶を淹れてくる間だけでいい。待ってみよう」
ザックは不満顔のまま執務机に座り、ケネスは侍女を呼びつけお茶を頼んだ。
待つ間、ふたりの間に会話はなかった。そのうちに窓から一番近い木にカラスが止まり、きょろきょろと中を窺い、窓際まで飛んでくる。そしてクッキーを口にし、そのあとカフスボタンを咥え、飛び立った。
「……平気そうじゃないか?」
「そうだね」
ふたりが見送った次の瞬間、「カーッ」とつんざくような鳥の鳴き声がしたかと思うと、どすっという鈍い音がした。バルコニーから身を乗り出して見つめると、庭に先ほどのカラスが泡を吹いて落ちているのを見つけた。衛兵たちが何事かと集まってきている。
「……ほら、俺の言うことを聞いていて正解だったろ?」
そう言うケネスに、蒼白になったザックは返事も出来ない。
「……兄上のところに行ってくる」
「あ、こら、ザック。待てって」
「どういうつもりなのか、直に聞きたいんだ」
「ザック。待つんだ。このままじゃ君は一年前の二の舞だ」
「うるさい」
立ち上がって、部屋を出ようとしたザックは、お茶を持ってきた侍女とぶつかった。