お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「きゃっ、申し訳ございません。アイザック様」
「こっちこそ悪い。茶は入れておいてくれ、すぐ戻る」
そしてそのまま、廊下に出て行ってしまう。訳の分からない侍女は、部屋に残っていたケネスに、おそるおそる声をかけた。
「あの、ケネス様」
「いいよ。君はお茶を淹れてくれるかい?」
ケネスはため息をついて、彼が消えていった扉を眺めた。
「……やっぱり、君にはロザリー嬢が必要なんじゃないのかい」
ポツリとこぼしたケネスの声は、ザックに届くことはなかった。
一方、ザックは侍女にものすごくおびえた顔をされたことで、少し反省していた。
(そんなに恐ろしい顔をしてるのか?)
これは自分向けに用意されたという菓子だ、バイロンは言った。
だが、第一王妃の派閥が、バイロンを狙うはずはない。
だとすれば、もしザックが見舞いに来たならふるまうようにと用意されたものなのだろう。
病床の兄にそんな謀略の一端を担がせることに、とてつもなく腹が立つ。
決して仲がいい兄弟ではなかったが、兄は兄だ。元々王位に興味のないザックにしてみれば、兄が元気になって王位を継いでくれる方がありがたい。そうすれば自分は公爵位と領地をもらって引きこもることだって可能になるのに。