お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
いら立ちで暴走してしまいそうな頭の片隅で、冷静な自分もいる。
やり口としてはうまい手だ。
そもそも第一王子のために用意されている時点で、主犯格を置き換えることもできる。
証拠はなくとも、動機があるのは第二王子サイドだ。
こちらに罪をかぶせられないときは、第一王子を犠牲にするつもりなのだろう。
第一王妃サイドにしてみれば、王に立つのがバイロンである必要はない。第三王子コンラッドのほうが、能力的には落ちようとも、健康で聞き分けもいい。
ザックは再びのボディチェックを受けてからバイロンの私室に入室する。
「兄上!」
「……騒がしいな、アイザック。何度もなんだい」
「兄上のくださった菓子を食べた鳥が死にました。医者に診せれば、毒があるかどうか判明すると思います。兄上は、……俺に毒を盛ったのですか?」
コンコン、と咳をしながら上体を起こしたバイロンは、暗い洞のような瞳をザックに向ける。
一瞬怒りが引いてしまうほどのその憔悴した様子に、ザックは一度言葉を区切った。
「なぜです? 俺は兄上を邪魔する気はありません。むしろ、早く治っていただきたいと思っています」
バイロンは、ザックが一瞬ためらったことまで見て取って、馬鹿にしたように笑った。