お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「お前は変わらないね。直情過ぎて王には向かない。まあ、民衆には好かれるだろうが」
「兄上……。このことが公になれば兄上だって処罰されるのですよ。分かっているのですか?」
ザックの激高がさも面白いとでも言うように、バイロンは笑いだした。
「私に期待しているのなんて、今ではもう、お前くらいだよ。もうすでに、周りは私に見切りをつけている。母上も、伯父上も、いずれ死ぬのならば、お前を道連れにして、コンラッドのために、憂いを払ってやれと思っているのさ」
「そんなバカな……。第一王妃にとって、あなたは大事な息子のはずだ」
「手駒として、私ほど使えないものもないよ。本来、王太子として、母上の立場を盤石にするはずだったのが、この体の弱さのせいで、お前に王位を取られようとしているのだから」
バイロンはアイザックを見つめた。
かつて、その瞳には分かりやすくアイザックへの憎しみがこもっていた。幼少期から母親に、アイザックには負けてはいけないと言われ続け、常に闘志にあふれるまなざしを向けられてきた。だからこそアイザックだって、本気で勝ちを狙いに行けたのだ。成績でも剣術でも、本気で向かってきてくれればこそ、本気で蹴落とすことができる。
だが、バイロンは病気になって、もう競わなくていいと思った途端に、どこかホッとしたのだろう。今彼を見る瞳には熱はなく、ただ、終わりの近い生を受け入れている。