お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
ロザリーへの手紙は、自室か執務室でしか書いていない。出すのはケネスに頼んでいるから、バレるはずはないと思っていた。
それが知られているとすれば、侍女か、たまに入ってくる文官の中の誰かが第一王妃へと情報を漏らしていることになる。
「分かりました。今後のことはケネスと相談します。……失礼します」
ザックは兄の寝室を出て、広い廊下を音を響かせながら歩いた。
ロザリーへの手紙はしばらくやめた方がいい。
もし自分が執心しているのが彼女だと分かれば、身柄を拘束するのは簡単な話だ。彼女は何の護衛もいない宿で、従業員として暮らしているのだから。
ザックは執務室に戻り、ケネス以外の人間を人払いした。
そしておもむろに手紙を書き始める。
「一体どうしたんだい」
止まらないペンを眺めながらケネスはザックに問いかけた。彼は、手を止めることなく、バイロンとのやり取りを語った。
「ふむ」
ケネスはしばらく黙って聞いていたが、「結局この毒入りクッキーのことはどうするんだい? せっかく証拠もあるところだけど」と問いかけた。
「これは内密にしておいた方がいいだろう。もし兄上が捕らえられたらことは大きくなる。まして俺に王位継承権が移ってきたら、動きづらくなるだけでなにもいいことが無い」