お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「実は、内々に教えていただいたのです。彼を呼び戻したいのならば、アイビーヒルの失せもの探しのお嬢さんを頼るようにと」
「誰にですか?」
「それは……」
「おやおや、どこかで見たことのある顔だな。バーナート侯爵の屋敷でだったか」
悠々とした声が背中にかかる。ロザリーが顔をあげると、そこにはケネスとザックがいた。
ロザリーは慌てて、手ぶりでザックに隠れるようにと伝える。しかし、ザックは観念したような顔で頷いた。
「大丈夫。まずい相手ではないんだ。以前、顔を合わせたことがあるな。ええと、バーナード侯爵の私兵だったな。スティーブとアダムだったか」
「覚えていてくださったですか! アイザック様!」
「シッ、その名で呼ぶな。彼女は大丈夫だが、他の者にはザックの名で通している」
ザックは小声でささやくと、ロザリーの隣の席に座る。
「俺を探しに来たのなら、イートン伯爵家に申し入れればいいだろう。なぜここにいる?」
「それが……イートン伯爵があなた様を連れて帰りたいなら、屋敷に直接訪問するよりも、こちらのお嬢さんにお願いしたほうがいいと」
「伯爵が?」
「はは、父上が考えそうなことだ」
カラカラと笑うのはケネスだ。ロザリーは不思議に思って彼を見つめると、ケネスは楽しそうに続ける。