偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~

「灯台の右側に、鐘とモニュメントがあるのがわかるか?」

 少し目を細め見ると、それらしきものが見える。どれがどうしたのかと小首を傾げ、真史さんを見上げた。

「あのモニュメントに名前とメッセージを書いた南京錠を掛けると、そのふたりの絆が深まるそうだ。そして海に向かって鐘を鳴らし、永遠の愛を誓う」

 真史さんの囁くような、でも心にじわりと届く柔らかな声が耳に残る。まるでロマンチックな恋愛小説の中に出てくる話のようで、うっとりとしたため息が漏れた。

「素敵な場所なんですね。そういうの、女子の憧れです」

 女性に生まれたからには、誰でも一度は経験してみたいシチュエーションだろう。恋愛経験のない私でも、ひとり妄想してしまいそうになる。

 その相手が、真史さんだったら──と。

 でも偽装恋愛ではそうもいかない。

 南京錠に書くのは、本当に愛し合っているふたりの名前。永遠の愛を誓うんだから、そうじゃなかったら意味がない。

 残念だけど憧れのシチュエーションは、もうしばらくおあずけだ。



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