偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~
いくつかお土産を買うと、市場をあとにする。まだ帰るには時間が早いと、途中車の中から見つけた可愛らしいカフェでケーキセットを食べ、少し遠回りして帰ることにした。
「門限はあるのか?」
「いえ、特に門限はない……」
そう答える途中、ふと朝の母との会話が脳裏に蘇った。
『なんなら、今晩は帰ってこなくてもいいからね──』
要らぬ妄想を頭の中に巡らせ、ボンッと一瞬で顔が熱を帯び両手で頬を押さえる。
お母さん、余計なことを……。
本当の恋人でも、デート初日に泊まるなんてあるわけない。そんなことを母親が娘に勧めるなんて言語道断だ。
まだ残っている妄想を頭を振って飛ばし、まだ赤いであろう顔を見られないように窓の外に目を向けた。ゴールデンウィーク中の道路は、夕刻を過ぎ混み始めている。観光地からの帰り道だから仕方ないと、車窓から夕日に染まる景色を眺めた。
「何、そっぽ向いてるんだ。耳が赤いが、何考えてる?」
「え?」
そ、そうなの? 私、耳まで赤いんだ。急いで両耳を隠し、真史さんに背中を向ける。