偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~
免許をとって六年、助手席に乗せたことがあるのは両親のみ。その両親ですら『あんたの運転する車には二度と乗らない!』と言うぐらいだから、プレジールの大事な社長の真史さんを助手席に座らせるわけにはいかない。
「運転なんて、無理です、無理。私が運転するなんて冗談じゃなく、地獄にまっしぐらですよ」
拗ねたように尖らせた唇に元気がなく、その顔のまま「ごめんなさい」と頭を下げた。
「本気で言ったわけじゃない、謝るな。それに朱里が運転したら、こんなことできないだろう?」
こんなことって何?と思う間もなく、伸びてきた左手が私の手を捉える。スルリと指を絡ませられると、あっという間に恋人つなぎされてしまった。
「あ……」
「朱里と手を繋いでいると、なぜか落ち着くんだよな。ずっと繋いでいたい、離したくない」
まっすぐ前を向いたままの横顔じゃ、真史さんの本意は測れない。そこに愛情はない、今だけの一時の気の迷いの言葉だとわかっているのに、心が勝手にはしゃいでしまう。
でもこんな簡単に、有無も言わせず手を繋げるなんて、恋愛に慣れている証拠。大人な真史さんに比べると、手を繋ぐだけで一喜一憂してしまう私はまだまだ子供のようだ。