偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~
「あ……」
それに気づいた真史さんが、私の体を離す。ゆっくり目を開けると彼は、しまったと言わんばかりの顔をしている。
「……悪い」
悪いって……。
私はキスされたのを怒ってるわけじゃない、そんな言葉が聞きたいわけじゃない。どちらかと言えばその逆で、本当はキスされて嬉しかったのに。
あとで悪いなんて謝るくらいなら、キスなんてしなきゃいいのに……。
真史さんは勝手だ。
じゃあなんでキスしたの?
偽りの恋人なのに、どうして?
謝るのは、どうして?
聞きたいことは山ほどあるのに、悪いなんて謝られたら何も言えなくなってしまう。
怒りや悲しみ、いろんな気持ちがごちゃまぜになって、目に涙がにじむ。それが溢れないように必死にこらえていると、肩に手が乗せられた。
「朱里」
「なんですかっ!」
つい口調に、怒りが混じる。
「怒ってるのか?」
「怒ってません!」
「怒ってるだろ?」
「怒ってないって言ってるじゃないですか! 真史さん、クドい!」
「クドい……」
あ……と思ったときには、時すでに遅し。真史さんは運転席にもたれ込み、ショックを受けているのか両腕で顔を隠した。