偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~
「社長とふたりで出かけたことは間違いありません。でも……」
「でも、何なの?」
三浦さんは苛立ちを隠せない様子で、トントンと人差し指でテーブルを叩く音が速くなっていく。その音は『早くしろ』と無言の圧力をかけていき、私を追い込んでいく。
「……付き合ってはいません」
俯き、小さな声で答えた。
今の私には、そう言うことしかできない。もう限界、もうこの重苦しい空気に耐えられない。両の手をギュッと握りしめ下唇を噛む。でも彼女たちは、一向に攻撃の手を緩めてはくれない。
「付き合ってもいないのに、あなたは真史と手を繋ぐの?」
「そうよ。そんなのおかしいじゃない」
「ちゃんと説明しなさいよ」
矢継ぎ早に言葉を浴びせられて、何も答えることができない。三浦さんの口から何度も出てくる『真史』と呼ぶ声に、胸は痛むばかりだ。
「人が多かったから」
自分でも驚くほど小さな、蚊の鳴くような声で答える。
「え、何? 声が小さすぎて聞こえないんだけど」
お付きの女性の嘲笑いとイジワルな物言いに、我慢していた何かが頭の中でプチンとはぜた。