偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~

 あんなことが言いたかったわけじゃないのに……。

 今頃しても仕方がない、後悔が押し寄せる。でもその反面、こうなったのは真史さんのせいじゃない!と怒りもこみ上げてきて頭を抱えた。

 しばらく無心になって、浅い呼吸を繰り返す。少し落ち着きを取り戻すと、最後に大きく深呼吸をした。顔を上げ、小さく膝を抱える。窓の外に目を向けると、私の気持ちと同じようなドンヨリとした雲が広がっていた。

「朝は天気良かったのにね」

 まるで空が同調してくれているようで、ひとりじゃないんだと安堵をもたらす。少し元気が出て、なんとなく笑みが戻る。気持ちが落ち着き始めると、冷静な判断ができるようになってきた。

「これでよかったんだよね」

 どのみち、すぐに終わる恋。その“恋”だって偽りなんだから、“恋”とも呼べないけれど。本物の彼女が現れて、まさか一週間で終わりを迎えるとは……。

 たとえ偽りでも、もう少し彼女でいたかった。けれどやっぱり私には、恋愛ごっごですら無理だったみたい。

 目尻から涙がポロリと溢れ、それを人差し指で拭う。

 顔で笑って心で泣く──。

 誰かに見られないようにひとりひっそりと泣くなんて、私も大人になったものだ。なんて、本当の大人は自分で『大人になった』なんて言わないか。

 ひとり大人ぶっている自分に、自虐的な笑いがこみ上げる。

 今日は朝から泣いたり笑ったり、私もなかなか忙しい。



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