偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~
「高坂さん、どうしたの? 大丈夫?」
沢渡さんはよろけそうになった私の体を支えると、心配そうな顔をして私を見た。
「ご、ごめんね。ちょっと、めまいがしただけ。ね、寝不足かなぁ、あはは……」
こういうときは、笑って誤魔化すに限る。
幸いなことに私の三文芝居もバレず沢渡さんと別れると、慌ててその場を離れた。研究棟の三階に上がり、すかさず開発事業部の隣のキッチンがある部屋へと向かった。
あそこなら、まだ誰もいないはず──。
予想は的中し、薄暗い部屋の中でしゃがみ込むと小さく身を丸めた。
「真史さんが、結婚……」
ボソッと呟いた言葉は、しんと静まった部屋の中に消えていく。私の心の中の辛い気持ちも、同じように消えてくれればいいのに……。
その願いは、どうやら叶わないみたいで。時間が経つほどに胸の痛みは酷くなって、我慢の限界を超えた思いが、涙となって溢れ出た。
なんで? どうして? 最後に会ったとき、『俺の女だ』とキスをしたくせに。出張に行った晩、忙しいのに電話を掛けてきてくれたのに。
あれが全部、夢だったの? 週が明けると、どうしてこんな騒ぎになってるの?