偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~

 真史さんの顔は見ないまま、鞄を取りに行こうと踵を返す。でも彼は、それを許してはくれなかった。

 今度は真史さんが私の腕を取る。掴まれた腕が、やけに熱い。

「俺の言うことが聞こえなかったのか? お前が店からいなくなったら、仕事が進まないだろう」

「でも……」

「今はとやかく言ってる場合じゃないだろう! 時間がないんだ、俺に任せておけ」

 ニヤッと自信ありげに笑うと、エレベーターホールの方へと歩いていった。その背中を複雑な気持ちで見つめる。すると真史さんは急に足を止め、クルッと振り返ったと思ったら、ビシッと腕を伸ばし私を指さした。

「いいか高坂。この代償は高いぞ」

「代償……?」

 呆気にとられる私にもう一度笑みを見せると、今度は振り向くことなく行ってしまった。




「伊勢鶏とふのりの彩り花籠膳です。お願いします!」

 模擬営業最後の料理の提供を終えると、どこからともなく拍手が沸き起こる。

「皆さん、今日は私のミスで迷惑をかけました。本当にごめんなさい。社長の迅速な対応で事なきを得ましたが、今後このようなことがないよう気を引き締めていきますので、オープンまでよろしくお願いします。頑張っていきましょう」

 私の挨拶が終わると、みんなそれぞれの持ち場に戻り後片付けを始めた。市ノ瀬くんにその場を任すと、店長のもとへと向かう。



< 173 / 195 >

この作品をシェア

pagetop