偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~

 でもちょうどいい。

 だって今の私には、涙を止められる自信がないのだから。

 泣いているのを悟られないよう、震えそうになる体を拳を握って必死に抑える。

「真史さん。結婚するって本当ですか?」

 いきなり核心を突いたのか、私の頭を撫でていた真史さんの手が止まる。

「ああ、本当だ。もう知ってたのか?」

 ああ、本当だ──。

 わかっていたこと、覚悟していたことなのに、真史さんの口から出た言葉に固く目を瞑る。

 三浦さんと話をして、ちゃんと終わらせてくる──そう言っていたけれど、元の鞘に収まってしまったようだ。でもそれは仕方のないこと。人の気持ちなんて、どこで変わるかわからないのだから。

 それでも、私の気持ちはちゃんと伝えたい。その思いだけは、一ミリだって揺るがない。相手に結婚が決まっていても気持ちを伝えるくらいは、神様だって許してくれるよね?

 目頭に溜まった涙を拭い、ズズッと鼻をすする。見栄も外聞もかなぐり捨てて、ゆっくり顔を上げた。

「真史さん、あなたのことが好きです。開発事業部にいた頃からずっと気になってて、でも社長になってしまってその気持ちに蓋を閉めて。自分の気持ちに気づかないようにしていたのに、お見合いの場に現れたのは真史さんで。なぜか偽装恋愛することになって、でも偽装でもそれが嬉しくて……」



< 180 / 195 >

この作品をシェア

pagetop