偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~

 膝の上に置いてあったバッグを乱暴に掴み、車から降りようとドアノブに手をかけた。と同時に、ガチャッとドアがロックされた音が車内に響いた。『え、どうして?』と振り向きかけた体が、真史さんの腕に包み込まれる。

 強く抱き寄せられ顔の向きを変えられると、いきなり口を塞がれた。遠慮のない乱暴とも感じるキスにどうしていいかわからず、でも言葉に出来ない熱い感情が込み上げてきて、必死に彼にしがみつく。息つく暇も与えられず、だんだんと胸が苦しくなってきてしまう。

「ま、真史さん、苦しい……」

 唇がわずかに離れた瞬間、息も絶え絶えに言葉を紡ぐと、真史さんはハッと我に返ったような素振りを見せて私を抱く腕の力を緩めた。でも決して、体を離そうとはしてくれない。

「朱里、大丈夫か? お前が全くわからないことを言うから、理性がぶっ飛んだ。許してくれ」

 まだ息が苦しい。胸を押さえ大きく肩で息をしていると、真史さんが優しく背中を撫でてくれる。少しずつ落ち着きを取り戻し、私の体に巻き付いている真史さんの腕に手を乗せる。そしてゆっくり、彼から離れた。

「ダメじゃないですか、結婚が決まったのにこんなことして」

 しかも私の気持ちを知った上でこんなことをするなんて、酷すぎるにも程がある。でもそんなことさえも、もうどうでもいい。半ば投げやりな気持ちから苦笑してみせると、真史さんは両手で私の頬を包み込んだ。



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