偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~
左手を眼の前まで持ってきてじっくり眺めていたら、隣から笑い声が聞こえた。何ごとと顔をそちらへ向けると、優しい瞳で私を見つめる真史さんの視線と交わった。
「そんなに見つめてて、指輪に穴でも開いてるんじゃないのか?」
「え?っそんな……って真史さん! 指輪に穴なんて開くはずないじゃないですか!」
からかうなんてヒドい!
抗議しようと振り上げた右手を、間髪入れずに掴まれる。
「この後の予定は?」
顔を寄せられ耳元で甘く囁かれれば、もう真史さんのことしか考えられない。答える言葉はひとつだけ。
「何もありません」
間近で私を見つめる瞳が、艶を帯びて輝いた。
「まあ予定があると言われても、お前を奪い去るつもりだったけどな」
お前に拒否権はないと言わんばかりの自信に満ちた言葉に、真史さんらしいと口元が緩む。
ハンドルを握り車を発信させた彼を見つめ、『夢なら醒めないで』──心からそう願った。