偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~

 もちろんゴミひとつ落ちていないし、リビングテーブルの上には読みかけだろうか、雑誌が一冊おいてあるだけ。必要最低限の家具と電化製品があるだけの、男の人らしいシンプルな部屋。これで片付いてないというのなら、私の部屋は今巷で話題の汚部屋だ。

「そんなところで立ってないで、好きなところに座れ」

 真史さんの声をかけられ、自分がリビングの入り口で突っ立っていたことに気づく。

「あ、はい。じゃあ、失礼します」

 ペコペコ頭を揺らしながら進み、ソファの端に座る。なんとなく落ち着かなくて、ソワソワしてしまう。

「お酒は?」

 オープンキッチンに立つ真史さんが、私に向かってワインボトルを持ち上げる。飲めるか?ということなのだろう。「多少は」と返事をすると、真史さんは満足そうに頷いた

 『多少は』とは言ったけれど、実のところお酒はなんでも大好きで。家で母と飲んだりすると、記憶がなくなることも。父親がベッドまで運んでくれ、次の日は二日酔いでダウンなんてこともしばしば。

 でも今日は家じゃない。真史さんのマンションで、そんな醜態を晒すわけにはいかない。



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