偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~
飲みすぎないようにしなくちゃ──。
心の中で自らをそう戒めていると、真史さんがワインとオードブルを持ってきて、それをリビングテーブルに置いた。
「戴き物の高級品だ。朱里と愉しもうと思って、取っておいた」
そう言って差し出されたのは、小瓶に入った黒い粒。
「キャビア、ですか? 初めてです、瓶に入ってるのを見るのは」
親戚の結婚式でお肉の上にチョコンと乗っているのを食べたことがあるが、私の給料では買うことのできない高級品だ。「すごいですね」と小瓶を持ってはしゃぎ顔を上げると、真史さんはまたもや眉間にシワを寄せた。
「もう少し砕けた話し方はできないのか?」
「あ……」
私の真史さんへの堅苦しい口調問題が、終わってなかったのを思い出す。小瓶をテーブルの上に戻し、ソファの上で姿勢を正す。
「それは敬語で話すなということですか?」
「彼氏に対して敬語で話す彼女は、どうかと思うが?」
優しく甘い声でささやきながら、ズイと顔を近づける。至近距離で見つめられて、ドキリと心臓が跳ねた。呼吸が上手くできない。
「え、えっとですね。わかりました、以後気をつけ……って、これがいけないんですよね」
やっぱりいきなりは難しい。困ってしまい苦笑を漏らすと、目を大きく見開いた真史さんが、ガバッと私の体を抱えた。そのままソファの上に押し倒されると、強く抱きしめられた。