偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~
何度も顔色を窺うが、それ以上表情の変わらない社長から、その真意をはかりかねていた。
少しぐらい、笑ってくれればいいのに……。
心の中で『笑え!』とつぶやくと、顔を上げた社長とバッチリ目があってしまった。今朝のことがあるから直視できない。
慌てて目線をそらし、手元のファイルに目線を落とす。
あぶない、あぶない。逢坂社長のあの目は非常に危険だ。
蛇に睨まれた蛙──じゃないけれど、強いものに睨まれたら、恐怖のあまり身動きできなくなってしまう。逃げたいと思っても、今この場から逃げ出すわけにはいかないし。
ブルブルッと体を震わせ、くわばらくわばらと唱えた。
「なかなか良いんじゃないですか。胸肉ですがそぎ切りにしてあるからか、多少厚みがあっても食べやすいし、この衣に入っているふのりもいいアクセントになってると思います」
あちこちから同様の意見が上がり、ほっと胸をなでおろす。