偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~
第一段階は突破か──。
相良部長を見れば、こっちを見て『よしっ』と言わんばかりに頷いてくれている。隣りにいる市ノ瀬くんも私に近寄り、「いい感じですね」と囁いた。
ここまでは順調だ。でも問題は……。
そろりと目を動かし、社長の様子をうかがう。良いとも悪いとも言えない表情だ。
一抹の不安がよぎる。と次の瞬間社長が顔をあげると、私はゴクリと生唾をのんだ。
「……うん。大体、みんなの意見に同意だ。この伊勢どりも悪くないし、ふのりも衣に合ってると思う」
社長はそう言うと、右手を顎に当てた。その表情は芳しくない。
ダメだったかな……。
また一からやり直しだと肩を落とし、音もなくため息をもらした。
「なあ、高坂」
名前を呼ばれて、ハッと顔を上げる。
「は、はい!」
「どうした、そんな暗い顔をして。俺はまだ、何も言ってないけど?」
そう言いながら、片方の口角を上げる顔は小憎たらしい。聞かなくたってわかる。だって、その顔に書いてあるもの。
顔は社長の方を向いたまま、目線だけそらした。