偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~
「いつものメイクや髪型じゃ、ダメだよね?」
鏡に映る自分にそう問いかけても、答えが返ってくるはずもなく……。
「もしかして、この前のお見合い相手とデートとか?」
鏡の中私の後ろにちょこんと顔を出す母に、小さく頷いた。
「任せなさい!」
母は一言そう言うと、目を疑うような速さで私の髪を梳き始める。セミロングの私の髪の左右を編み込んでいき、あっという間にハーフアップ纏め上げると、女性らしい清楚で可愛らし髪型に仕上げてくれた。
「お母さん、スゴイ……」
「まだまだこれからよ」
そう言って、次に取り掛かったのはメイク。
「朱里はスッピンでも可愛いから、ナチュラルメイクでいいわね。でも肝心なのは色っぽさ。ツヤ感のあるリップで、彼がキスしたくなるような潤い感のある唇を作らなくちゃ」
「お、お母さん、何を言って……」
母の口からそんな言葉が飛び出すとは……。
お洒落なんかには無頓着だと思っていただけに青天の霹靂、驚くしかない。
でも鼻歌交じりに楽しそうにしている母を見ていたら、なんだか申し訳ない気持ちが膨れ上がってきた。