偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~

 私は、両親や伯母たちを騙している──。

 高揚していた気分が、シュンと音を立てて小さく萎んでいく。

「朱里、どうしたの? 初めてのデートで緊張してきちゃった?」

 心配そうなかおをする母に、首を横に振る。

「ううん、なんでもない、大丈夫。でも、緊張はしてるかも」

 そう言って苦笑いするしかない私を、母が背中側からギュッと抱きしめた。

「大丈夫よ、朱里。姉さんから相手の方は好青年だったって聞いてるし、歳も三十を超えてるんでしょ? 初めてのデートは彼に任せて、朱里はふたりの時間を楽しめばいいのよ」

「そ、そうだよね……」

 お見合い相手が全く知らない人で、本当の意味で交際がスタートしたのならば、私だったそう思えたのかもしれない。けれど相手はよく知っている我が社の社長、私の想い人だったりするわけで。しかも偽装恋愛、偽りの恋人を演じなきゃいけないんだから、荷が重いというかデート自体を楽しめるかどうか……。

 いろいろな意味で──不安だ。





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