偽装結婚ならお断りです!? ~お見合い相手はイジワル社長~
ここは欧米じゃなく日本。挨拶代わりにハグやキスをする習慣はない。
それに真史さんは、私のことを好きじゃないじゃない。それなのにキスキスキスキス、しつこいったらありゃしない。
「別にキスにこだわってるわけじゃない。朱里に、ちゃんと名前を呼んでほしいだけだ」
「偽りの恋人なのにですか?」
「ああ、そうだ」
ああ、そうだ──なんて。まあ、よくもそんなあっさりと。人の気も知らないで、一体何がしたいと言うのだろう。
逢坂真史。あなたのことは好きですが、あなたという人間はよくわかりません。
諦めにも似たため息を漏らすと、おもむろにシートベルトに手をかけた。
車が走り出すと、チラッと真史さんを横目に見る。
会社で見るスーツ姿も素敵だけれど、今日のラフな私服姿はいつもとは違うカッコよさがある。普段は年の差を感じる真史さんも、デニムにシンプルなカットソーを着ていると歳が近くなったというか、身近に感じてちょっと嬉しい。