あの歌が聞こえてくる
そうたしか、去年の夏に高校一年生の頃の友達の山田サトシ(トシ)に誘われて始めたサーフィンも、夏が終わると共に終わりを告げた。始めたときは女の子にもてたいと単純な理由で意気込んで、ブランドの板とブランドのウエットスーツ、冬の冷たい海に備えてブーツや、手袋まで、やっとの思いで寿司屋の配達バイトで貯めたお金をつぎ込んで買ったのだがあえなく断念。当時の俺は「やっぱ男は海っしょ!!」と*海人*とプリントされているTシャツを着て近所に住む幼なじみの大嶋徹(てつぼう)に「今日の波は良い」とか、「風が入ってきている」とか、「今日はオフショアだな!バリでファンウェーブしてーな!」とうんちくを並べ、携帯で波情報のサイトを見ながらボブ・マリーを聴いていた。俺はこのとき必ず言うセリフがあった。昔テレビで見た、ボブ・マリー特集のときの有名なサーファーが「ボブ・マリーの曲は、いかにも南国ラテン系の音楽なのに、ディープでスピリチュアルなメッセージが、引いては押し寄せる波のようなスローでメローなリズムに乗って、優しく心の奥深くまで染み込んでくる。遠いジャマイカの海を思い浮かべる」というセリフを丸暗記し、いかにも自分の言葉のように語っていた。しかもサーファーがよくやる握手の練習にてつぼうはよく付き合わされていた。今ではそんなサーフ用品達はてつぼうの一発ギャグにも使われなくなり、ついには部屋のホコリをかぶったオブジェと化していた。母親のトシコ(カー)は「まったくせっかく高いものかって!こんなでかい物、ビート版にもなんないじゃない!使わないならリサイクルショップに持ってきなさい。」と言い続けているが「進路が落ち着いたらまた行くんだからいいのー。」と言っていた。