あの歌が聞こえてくる
かれこれ二時間は飲み続けて、少しの沈黙の後とおるさんがCDコンポでエリック・クラプトンのティアーズインヘブンを流し、照れくさそうに話を切り出した。「私ね、こうなる前、バンドやってたのね。歌が大好きで、大好きで、勉強もしないで歌の練習ばっかりしてたの。そしたら19歳の時そう今のマルちゃん位の時に、デビューの話が来たのよ!最初はやっと認められたな!これまでやってきてよかったな!って思ったのよ。でも実際そうじゃなかったのよ。私が思ってた世界じゃなかったのよ!切り捨ての厳しい世界でしょ。今度はどうすれば売れるとか、どうすれば流行るとか考えるようになっちゃたのよ。まぁ若かったのもあるし、勇気がなかったのかもしんないけど、もう歌が嫌いになりそうになってたわ。そんな時ある人がこういったの。メジャーになるだけが成功じゃないって!そりゃあ、世間に認められたらすごいことよ!けど、それで好きなことが嫌いになるのなんて寂しいって。かわいそうだって。そんな事言われたってせっかく来たチャンス逃したくないじゃない。それで、その人と喧嘩になったのね!お前に何が分かるんだ!ひがんでるんじゃないかって!そしたら、その人次の日交通事故で死んじゃったのよ。仲直りもしないで・・・。そいつ私のライブとかにも一回も見に来たこともない奴だったの。でもお葬式の時に私の知らないそいつの友達に会ったら、私の事を自分がデビューするぐらい嬉しそうに私の話してたって。それでCD聞いてくれって!何枚も私のCD買って配ってたのよ。そいつ・・・」少し照れくさそうにとおるさんは笑い話を続けた。