夜をこえて朝を想う
傷つく人がいる。

今まで、その人の為に諦めて来た。

私のせいで、誰かが傷つくのは嫌だから。

そう思ってきた。

だけど、それは…

諦められたから。

だけど、今は

分かっていても、諦められない、考えられなくなる

それほどに焦がれた。

自分の物にならない不毛な恋に。

一番になれない虚しさを背負ったまま

せめて、終わりは自分で。

「食事、どうする?」

そう聞いてきた彼に即答した。

「あの、初めて会った時に行ったとこ!」

「ああ、いいね。何ならホテルも取れば良かったな。」

「それは、いいよ。誰に見られるか分からないし。それに…そんなにしょっちゅう泊まるとこでも、ないよ。」

「そうか、じゃあ…行こうか。」

何も考えずに、楽しんだ。

「何だ?今日は妙に明るいな。」

「へへ、今日で区切りがついたんだ。」

気持ちの。

「俺も…時間取るようにする。もう少し。」

そう言った彼に微笑んだ。

彼の部屋に入ると

「今日も泊まって行くだろ?」

彼の言葉に頷いた。

「でも、朝帰るね。」

「はあ?準備持ってこいって…」

「あのさあ、家そこなのにわざわざ荷物持って会社行くの、おかしくない?」

「ああ、まぁ、そうだな。じゃあ、一旦帰ってから出かけるか。ピクニックでも。」

「あはは!清水部長のピクニック!めちゃめちゃお父さん感でる!」

「…悪かったな、老けてて。」

「そんなところも、大好き。」

そう言って、自分からキスをした。

「珍しいな、湊が…」

何か言いかけた彼の口をもう一度塞ぐ。

好きで

好きで

好きで

大嫌い。

たくましい腕の中、何度も揺らされ、何も考えられなくなった。

夢なら良かった。そんな夢のような酔いきれない…現実の中で

何度も何度も

好きだと言った。

今だけ。

ベッドの上でだけなら許される

そんな、私の不毛な恋を吐き出す為に。

「清水部長。」

「やめて、それ。」

「知らないもの、私。あなたの名前も。」

「…嘘だろ?」

「教えてくれなかったじゃない。」

ずっと…

そうとしか、呼んだことなかったじゃない。

やっと…気付いたの?

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