夜をこえて朝を想う
「あの日、そこのホテル泊まったんですよね?」

「ああ。」

「説明しました?」

「何のだよ。」

「愛してるだの、何だの言いました?」

「…言った…かな。」

「ピロートークですよね?」

「あのなぁ、だいたいそんなのはそんな時にしか言えないだろ。エンドルフィンあたり出てる時しか。君じゃあるまいし。」

そう言うと、ため息をついた。

「そもそも、顔がややこしい。」

は?

何だ?顔って…

「今さら何を言っても…ややこしいな。ああ、それに湊の性格と…過去もややこしい。」

「何だよ…」

「土曜の夜と、日曜は?」

何だ、それ…不倫ソング?

古いな。分かっちゃうけどな。

「過ごしてない。」

「思い当たる節は?」

「ない。あるっちゃ、あるけどその前にこうするつもりだった。彼女は。」

「聞いてもいいですか?」

「聞かれたんだよ。部下と話してるの『あのホテルから出てくるのを見た』ってね。湊じゃなくて、麗佳のを。それを聞いた別の奴が、『結婚前に遊んだんだ』って言った。」

彼の目が何かを追うように揺れ

…止まった。

「それだ。」

「いや、それ聞く前に向こうは引っ越してた。」

「決定打。結婚って?」

「部下に、彼女と結婚考えてるのかって聞かれたから、答えたのがそうなっただけだ。」

そう言うと

彼の肩が震えた。

「くっくっく…」

何だよ…。

「湊の、ストーカー男、湊と付き合ってる時に婚約発表したらしいんですよね。つまり、湊からしたら“結婚前に遊んだ”まぁ、たぶん察するに…本命は湊だったんだろうけど。」

「つまり…」

「本気、なんですよね?」

彼は強い目を向け、そう聞いた。

「あのなぁ…」

「答えて下さい。」

「…本気だよ。これ以上ないくらい。」

真っ直ぐにそう言った。

「は!ですよね。」

…つまりは

「結婚前に遊んだと?俺が?」

「まぁ、そうとられても仕方ないですね。誤解が重なっただけで。あ、清水部長独身ですよね?」

「君ねぇ。」

彼は可笑しそうに肩を揺らすと

その鞄から取り出したものに、何やら書き出した。

「ほら、やっぱり…手が早すぎるのも考えものだな。」

そう、一人言を言いながら。


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