夜をこえて朝を想う
昨日のうちに、打ち出しておいた。

今日は、定時に帰ると。

定時に会社を飛び出す。

5分とかかりはしないが

あの日、走って去った吉良君を思い出す。

まさか、俺も走るなんてね。

息を整えて待つと

俺の待ち人が出てきた。

「やぁ、また会えたね。」

少し明るく、短くした髪。

以前は見えなかった首と肩のラインが春らしく覗く。

相変わらず、綺麗で

自分の鼓動に再確認する。

彼女に…惚れている…と。

俺に気づくと、目を見開き、踵を返そうとする彼女の腕を掴んだ。

強く。でも…傷つかないように。

「見せたい物がある。悪い、付き合って。」

もっとマシな言い回しを出来ないものか。

「私は…」

「うん。」

分かってる。もう、会いたくなかっただろう事は。

だけど…そのまま…俺の家に向かった。

ゆっくり、話がしたかった。

彼女の目に迷いの、色。

それは、そうか。

「入って。」

動かない彼女に言った。

「何も、しない。離れておく。ドアの鍵も開けておく。」

彼女は、戸惑いながらも足を踏み入れた。

「何か色々言い訳するより、これが早いかなと思って。」

そう言って手渡す。

その書類に目を通し、何度も同じところに目を走らせる。

彼女が、目を見開き

こちらを向いた。

「嘘…でしょ?」

「…本当だよ。」

やっと、伝えられる。

彼女に。

それは、喜びのような、不安のような。

だけど、その先に見る期待。

彼女の、反応に期待をする。

…きっと…

彼女も。

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