夜をこえて朝を想う
少しの荷物を持って、彼は言った。

「さて、そろそろ行こうか。腹減っただろ?」

「いや、ほら…顔もヤバいし、身体もヤバい。」

泣きすぎて化粧なんて残ってないし

…その、あれで、ほら

足腰もヤバい。

「もう、このまま寝たい。」

「駄目だ。食べないと。すぐ痩せるだろ?」

「そう思うなら、あんまり動かせないでよ。」

「えー、俺が動くと“好き勝手”って言われるからなぁ。」

そう言って笑う。

顔、(わっる)…。

「何食べる?」

「海藻以外。」

「は?何だよ、海藻?」

「あ!大きな魚!」

「…寿司でも行くか?」

「とりあえず、湊の家の方向、どっち。ああ、面倒だな、車買うか。」

「持ってそうなのに。バンとか。」



「すいませんね、この上ない妻帯者顔で。」

…ぶはっ。

思わず激しく吹き出した。

「お父さん感すごいもんね。」

「売ったんだよ。毎日、会社と家の往復で全く乗らなかったから。なんせ、彼女もいませんでしたからね。」

「へぇ~、モテそうなのにね。難でもあるのかな?」

「だから、妻帯者顔だろ?」

「気にしてる!」

「湊は?」

「…うーん…自称不幸体質だから。」

「自称?」

「そう、思ってただけで…思い返せば結構まともな人からも、モテたかも。…ひょっとして、私美人なの?一般的に。」

「ああ。誰もが、そう思うだろうな。何だ、今更。」

「惜しいことをした。」

「何が?」

「ぶちょーとこうなるまでに、2-3人は挟めたなぁ。もっと、美人のつもりで人生楽しめば良かった!」

「…あのねぇ…」

「ふふふ。」

「明日はピクニックでも行くか?」

「そうだね。11回目の…」

「……。」

「ごめん。」

つい、数えてた。

私が、自分で…

そうしてた。

「ん、いいんだ。」

「…探した?」

「ああ。」

「ごめんね。」

「ああ。」

そう言って、優しく笑うと

「二度と、ごめんだね。」

そう言った。

彼のその顔に思う。

ずっと…優しかった。

彼は。

それは、やましさを裏に隠した、後ろめたさからの優しさじゃなかった。

ずっと…

真っ直ぐな優しさをくれていた。

私に。

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