夜をこえて朝を想う
多少のブーイングは受けつつも

休みは取れた。

まぁ、大丈夫だろう。

宿に荷物を預け、散策に出た。

いい季節だな。

温泉街に沿った川辺の風を受け、微笑む湊にこちらも嬉しくなる。

平日とあって、温泉街は人も少ない。

土産屋のご婦人に

「まぁ、若い奥様ですね~。」

なんて言われてしまう。

湊が笑いを噛み殺している。

確かに、髪を切って前髪を作ったせいか、年より少し幼く見える。肌も綺麗だしな、湊は。

「ご免なさい、部長。」

「止めろよ、部長は。」

「じゃあ、パパ。」

「お前!」

「パパ活~!」

「そこまで、若く見えないし、俺もそこまで老けてない!」

…まぁ、金が発生してもいいくらい…綺麗だな。

課金しようかな、オプション付くなら…

発想に苦笑いする。

何もないが、この非日常を楽しむ。

照れくさそうに手を繋ぐ。

「あー、のんびりし過ぎて仕事頑張れるかな。」

「ああ、新しい職場だもんな。慣れるまでは大変か。」

「結構、緩いのよ。普通の会社じゃないからさぁ。所長が“LEON”で。」

「何だ?レオンて。」

「ちょいワルオヤジ。」

「…何だそれ。」

「まぁ、機会があれば見て。」

…ないだろ。

何だよ。

「今日、ありがとうね。ここ、連れて来てくれて。」

夕日を顔に浴び、その色に染まった彼女が綺麗な顔でそう言った。

儚さを含んだ美しさに、思わず手を伸ばす。

消えて、しまいそうで。

「わ、どうしたの。」

ひょっとすると、俺の方がトラウマかもしれないな。

強く抱き締めて、湊の体温を感じた。

「まずは、1回目の風呂に行こうか。」

「大浴場!」

「あー、だな。部屋でもう1回ね。」

俺の言葉に

更に、何かを想像したのか、夕日色になった湊にそう言った。

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