夜をこえて朝を想う
「湊、温泉でも行かないか?」

「……。」

「海外とか、アクティブな旅は行くだろ?」

「……。」

あの時は…果たせなかった。

本気で言ってくれてたんだな。

温泉なんて、不倫の聖地じゃないか。

※湊の偏見です。

「いや、だから…“そういう旅”じゃないだろ!」

何も言ってないのに、清水部長がそう言う。

「…土日でもいいけど。」

「いいの?子供の運動会とか…」

「湊~…」

「冗談だってば。」

「いつにしようか。」

「生理かぶらない辺りで。」

「ああ、じゃあ…排卵狙うか。」

「……。」

排卵日とか、分かるんだ。私もよく分かってないのに。

思わず、睨む。その慣れた感じに。

「冗談だよ。怖いな。」

もう、来週しかありませんけどね。

「あ、次の金曜くらいだな。湊、もう仕事だもんなぁ。生理は?」

「大丈夫。」

「そこ、何とかする。金土と行こう。」

何とかしなきゃらならないくらいなら…

「いーよ、無理しなくて。忙しいでしょ。」

…微妙な顔。

「取るから。休みも宿も。移動に時間かけたくないから、近場ね。」

「遠くが定番じゃないの?誰にも会わない。」

…つい、言ってしまった言葉に

彼が苛立つのが分かった。冗談でその場に倒される。

「…まだ言う?」

「…ごめんなさい。」

嬉しいんだよ。

本当は。

でも、上がって、また落とされるのが…

じんわりとまた涙が出そうになった。

そんな私の頬にそっとキスをくれる。

優しいキスを…

彼は…そんな人じゃない。

「行きたくないのか?」

「忙しいの知ってるもん。」

「行きたくないのか、聞いてる。」

「…行きたい。」

「ん、予約する。」

「うん…。」

…信じてないわけじゃないんだけどな…
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