夜をこえて朝を想う
清水部長は約束通り、休みを取って温泉へと連れて来てくれた。

宿に荷物を預け、散策に出た。

遅くまで日も高いし、半袖で十分だった。

川辺の風を受け、微笑み合う。

風がくすぐったい。

平日とあって、温泉街は人も少ない。

「まぁ、若い奥様ですね~。」

お土産屋さんのご婦人にそう言われ

「いや、4つしか変わらないんですよ。」

だなんて、真面目に言い訳してる。

可笑しい…

「ご免なさい、部長。」

「止めろよ、部長は。」

「じゃあ、パパ。」

「お前!」

「パパ活~!」

「そこまで、若く見えないし、俺もそこまで老けてない!」

ま、10歳若くは、厚かましいか。

彼は10歳上に見えるけどね。

でも…すっごい素敵だけどね。

切れ長の目が、優しく綻び

私の手を取った。

…恥ずかしい。

けど

嬉しい。彼の手、熱いな。

「あー、のんびりし過ぎて仕事頑張れるかな。」

「ああ、新しい職場だもんな。慣れるまでは大変か。」

「結構、緩いのよ。普通の会社じゃないからさぁ。所長が“LEON”だから。」

あの雑誌から出てきたような人だ。

「何だ?レオンて。」

「ちょいワルオヤジ。」

「…何だそれ。」

「まぁ、機会があれば見て。」

…まだ、早い歳か。

「今日、ありがとうね。ここ、連れて来てくれて。」

暮れかけた日を顔に浴び、その色に染まった彼にそう言った。

綺麗だな。夕日も、映る彼も。

不意に抱き止められる。

「わ、どうしたの。」

少し泣きそうな彼に思わずそう言った。

彼は、一度強く抱き締めた後

「まずは、1回目の風呂に行こうか。」

そう言った。

「大浴場!」

「あー、だな。部屋でもう1回ね。」

と、言われて

未だ慣れない

あんなこと、こんなこと

想像してしまい

たぶん、夕日より赤くなった…

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